STYLE COFFEE

2022/12/19 22:55

Moneyball

お店を開いてから常に意識していたことがある。
それは論理的思考を持つということ。

抽出レシピを組む時は1秒0.1g単位で落とし込む。
毎朝調整しているコーヒーはTDS(コーヒーの成分がどれだけ水に溶け込んでいるかを計測する機械)を使用し基準値内を目指した。

これらはコーヒー屋として当たり前の営みかもしれない。
レシピや味わいをなるべく数値として落とし込むように心がけていた。
なぜ意識して論理的でいようとしたか。それはお客さんやスタッフに説明する際に数値や経験値を伝えることでより理解してもらいやすいと考えていたからだ。
お客さんにレシピを聞かれた際、大体200ccのお湯を淹れて挽き目は中挽きです。あえて難しい説明をしてコーヒーを淹れるハードルをあげてしまうのは良くないがこれらの曖昧な
説明は何か自分の仕事をいい加減にしているような感覚に陥る。
そのため使用する豆の量とお湯の量は1:16。
1投目は35ccお湯を注ぐ。
2投目は1:00から75ccまで注ぐ。etc
落ち切る時間も設定して再現性に重きを置いた。
TDSも1.23-1.28の基準値を設け、外れている際は何度も調整した。
プライスカードのコーヒー豆の説明も端的に分かりやすい単語を並べた。
人に説明する前にきちんと自分に説明がつくかを念頭に置き、入念に準備をした。

しかし最近、論理的でいることが誠意だと思い続けてきたが違和感を覚える出来事があった。
まずTDSだ。自分にとって美味しいコーヒーを淹れることが個人でお店をする本質だと思っているが設けた基準値に落とし込むという目的に変わると美味しさの迷子に陥る。舌に向き合うことが必要なのに数字と向き合うことは本末転倒だ。TDSで計測することをやめた。
自分の心地よいポイント(主に口当たり、甘さ、クリーンさ)を見つける。飲んで調整を繰り返す。ポイントを見つけて久しぶりにTDSを測る機会があった。

1.15だった。以前はこの数値を見たらもっと濃度をあげようと勝手に定めた基準値に合わせようとした。ある種、思考を停止させていた状態だ。今は現在出せる自身の美味しさを表層化させることに注力し数値ではなく感覚を信じることができる。

もう一つの出来事はプライスカードの味の特徴の表記である
以前は
Brazil 
Hazel nut, Red apple, Vanilaとシンプルな記載方法だったが現在は

Brazil
僕の中のマイルドとはこういうことだと思う。味噌汁のように毎日飲める、飲みたい、そんなコーヒー。
プライスカードが変更になった経緯はこの店のデザインやビジョンを共有している方のアドバイスの賜物だ。以前のものは感覚的な違和感もあったし、お客さんが味をイメージしにくい印象があった。変更後の文は僕の経験の話がほとんどで共有材料はない。しかし変更してからは直接的な味の記載はあまりないもののじっくり読んでくださる方も多く、感触は良い。
映画ディパーテッドやタクシードライバーで有名なマーティン・スコセッシ監督は最も個人的なことが最もクリエイティブなことだと言っていたことを思い出す。

さらにもう一つ変化があったのは淹れ方だ。淹れ方といっても上記で述べたレシピの類ではなく所作だ。美しく淹れたいと思っている。例えば器やケトルが正しい位置に置かれているか、置くときは慎重に、そしてスケールが汚れていないか等を慎重に見る。これはどう見られるかという観点ではなく美しく淹れようと意識することで自分の心の表情が見える気がするのと行為自体が気持ちいいからだ。
味わいに直結はしていない。しかし心地良い。

将棋で有名な羽生善治氏の捨てる力という本にこんな一説がある。

美しい手を指す、美しさを目指すことが、結果として正しい手を指すことにつながると思う。正しい手を指すためにどうするかではなく、美しい手を指すことを目指せば、正しい手になるだろうと考えています。このアプローチの方が早いような気がします。

僕の将棋のイメージは論理的であることが何よりも重要だと思っていた。もちろん基礎にそれがあると思うのだが、将棋の最高峰の人が論理と同様に美意識を念頭に置いていることに驚く。

美味しいという字にも美が含まれてる。

倫理的でなければ美味しいものは作れないと本気で考えていた。
そこを踏まえたこれからの景色が楽しみである。

論理に成り立つ美意識を思考していきたい。

Rwanda / Mibilima

今回は新しくリリースしたルワンダのコーヒーの焙煎についてです。

毎年リリースしているルワンダです。
 

Rwanda / Mbilima lot2204

Location: Gakenke

Variety: Bourbon

Process: Washed

Altitude: 1500-2100m

Taste note: Dried Apricot,Apple,Caramel finish

 

ルワンダの豆は口当たりもよく、香りもオレンジの爽やかさとキャラメルの甘さを持つ印象で今年の豆もそれらを引き継いでいます。

 

今回生豆の購入の際に10種類以上のサンプルをいただきました。

その中でMbilimaを選んだ理由は口当たりが良いと感じたからです。

香りが強かった豆もありました。

香りがあると甘さや余韻に連動して最後まで液体を引っ張ってくれます。

また味の印象に残りやすいしインパクトを与えます。

これがないとショート、いわゆるスッと余韻がなく早く終わってしまうコーヒーになります。

 

迷ったのですが僕が口当たりの良いコーヒーが好みなのでMbilimaを購入することを決めまました。

 

 

焙煎ですが、他の豆より前半から火が入りやすくどんどん豆の温度が上がっていきます。

1バッチ目は抑えきれずトータルタイムが短くなりました。

その結果、香りが弱く少し水っぽくモルティーでした。質感は良好です。

 

2バッチ目は前半火力を抑え後半は1バッチ目と変更せずに進行しました。

イメージ通りの焙煎になりましたがカッピングで味をとってみると質感は変わらず良好ですが香りが上がってきません。

ふと購入の際に香りが強い方を買えば良かったのかと脳裏によぎりました。

前半、火をいれたいがいれてしまうと進行が速くなり出来上がりの液体がモルティーになってしまいます。

 

それらを踏まえて3バッチ目は前半の火力を落としたままディヴェロップメントタイムとトータルタイムを伸ばしました。

ディヴェロップメントタイムを伸ばすということは高い温度のまま焼き続けるということで、口当たりにかなり影響します。

口当たりに重きを置く当店の焙煎ではディヴェロップメントタイムをなるべく短く取るようにしています。

しかし豆によって硬さや水分値が異なるので水分の抜けには差があります。

今回のバッチでは少しのばしまし。結果カッピングをすると甘さ、香りとも向上し懸念された口当たりも問題ありませんでした。

 

今回も試行錯誤し勉強になったコーヒーです。